水面に映る風景にさわれないように、翔ぶ鳥の羽に触れることはできない。
この世界に確かに存在するものであるのに。
風景と自分の間にある距離もしくは境界線のようなこと。
ある瞬間、それが消えたような気がすること。
犬と海岸を散歩しながら、何気なく飛んでいる鳥を眺める。
私の日常の風景の一部として当たり前のようにあり、その存在はとても近く、風に乗って飛ぶ姿が美しいなあと日課のように思う。
でも、その羽に触れることはできないし、触れられないということに気づいてもいない。
それに気づいた時、見るということがとても不確かで曖昧であるとあらためて感じた。
私が見ている鳥はその実体から離れて私が見ている鳥としてとても曖昧に、でも確かに存在しているのだ、と。
目に見えていること、見えていないこと、確かに存在しているということ、同時にある不確かさ。
現存するものを写しとり記録するという写真の性質は、その捉えきれない世界について、着地点を与えてくれるような気がするのです。
原口佳子
今回の写真展は2021年に東京・目黒の金柑画廊で開催された写真展「飛ぶ鳥の羽に触れたい」に数点の新作を加えた写真展です。
前回の2018年に当ギャラリーで開催した写真展「いない」に続き2回目の開催となります。
今回メインビジュアルとして公開しているモノクロ写真は実際のプリントでは完全なモノクロではなく、少し色味が付いたモノクロ風の仕上がりとなっています。
モノクロフィルムで撮影し、プリントはカラー暗室で行うことにより、そのような仕上がりになります。
原口氏は作家活動初期のころにモノクロフィルムも試されたということですが、自身が撮影する時に「色」を観て撮影していることに気付いてからは、
カラーネガフィルムのみで作品制作を続けてこられました。
その後、風景と対話する中で「この景色はモノクロフィルムで撮りたい」とまた思うようになり、5年ほど前からカラー暗室でモノクロフィルムをプリントすることにより、
グレースケールではないモノクロプリントを制作されています。
カラー暗室でモノクロフィルムからプリントを制作すると、どんなに調整しても色味が残り、あまり選択されない作品制作方法ではありますが、
原口氏にとってはこの色味が雑味や温度となり、表現方法と感覚が近付けたといいます。
原口氏のステートメントや暗室での会話を振り返っていると、原口氏が少しずつ、でも確実に撮影や作品制作を通じて、
目に見えないものの輪郭に触れ作品に焼き付け、金柑画廊の展示を皮切りに制作者のもとを飛び立ち、
鑑賞者の目に触れその世界が広がり、またこうして制作の場であるRIVIEREに帰ってきてくれることは、
巣立った小鳥たちがまた大きくなって帰ってきてくれたような、そんな嬉しい気持ちになります。
原口氏の個展を開催出来ることを光栄に思うと共に、これからも原口氏の作家活動を支援して参ります。
Galerie de RIVIEREは招待展示を通じて、ギャラリーとして様々な表現活動を行う作家の支援を行って参ります。
RIVIERE
目に見えるものがすべてではないということを確かめる行為として撮影、作品制作を続けている。
〔個展〕
2021 「飛ぶ鳥の羽に触れたい」 金柑画廊(東京 目黒)
2019 「いない」 Galerie de RIVIERE(大阪 吹田)
2018 「いない」 金柑画廊(東京 目黒)
2016 「輪郭のない記憶」 金柑画廊(東京 目黒)
2012 「それでもつづく」 金柑画廊(東京 目黒)
2009 「床屋のかがみは海へつづく」 FUKUGAN GALLERY(大阪)
2009 「cosmos ~バウムクーヘンの森/嘴のさきに見える山」artdish(東京 神楽坂)
2008 「バウムクーヘンの森」 FUKUGAN GALLERY(大阪)
2006 「うきわかもめ」 FUKUGAN GALLERY(大阪)
2005 「Land」 FUKUGAN GALLERY(大阪)
2003 「echo」 FUKUGAN GALLERY(大阪)
2002 「sonatine album」 FUKUGAN GALLERY(大阪)
2001 「night swimming」 FUKUGAN GALLERY(大阪)
2000 「blue noise」 FUKUGAN GALLERY(大阪)
1999 「PLASTICBLUE」 FUKUGAN GALLERY(大阪)
〔グループ展 他〕
2020 「IMA next(THEME #11 “LIGHT”)」ショートリスト選出
2013 ”The Calm before the Storm" GALLERY HO (ニューヨーク)
1998 “canon写真新世紀”佳作 など
〒564-0062 大阪府吹田市垂水町3丁目1-17 リヴィエール2F
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