「フラットでグレーなもの」
確か大学の終わり頃に、その当時言葉遊びをしていたときになんとなく思いついて、そのまま今日まで使っている言葉です。
上も下もないフラットな、白でも黒でもないグレーな、ちょうどいいもの。
私たちは日頃、現実を生きていく中で、いろいろなものに意味づけしています。
現実は”もやもやとして曖昧”で、そのままを受け入れるということは労力を伴い、不便なので名前をつけたり、言葉をつけたりしている。意味の外にあるものを書割の絵みたいに省略する。
それ自体はみんな当たり前にしていることです。
でも、意味づけできるもの(しやすいもの)だけにして曖昧なものを排除したら息苦しくなってきます。
だから一度すこし意味から離れて、省略する前の、言葉になる前の、曖昧なままを見る。もちろん、曖昧なままを見るだけでも足りないと思います。上も下も、白も黒も眺めてみる。
それはフィルムで撮って暗室でプリントを作っていくプロセスと似ています。
撮ってからプリントまでに時間や空間の隔たりがあるから、撮影時に意味づけしていたものとは別のものがあることに気づくことがある。逆に意図せずに撮ったものに何かを感じることもある。
去年制作したZINE「ありふれたもの」で、過去に起こった、ありふれた出来事に対して、私がどのようなものとして受け止めたのかをまとめました。
それについて何度も折りに触れて、意味を考えました。それを考えることが無意味だったとは思いませんが、一度、意味から離れて曖昧なままを受け止めることで見えるものもあるとそう思います。
マツオカヒロタカ
マツオカヒロタカ氏(以下、「マツオカ氏」)とは昔からの知り合いで、リヴィエールを作る際も大変お世話になりました。
マツオカ氏の写真は主に実体験の要素が強い写真(スナップも含めて)から構成されており、「プリントのプロセスも含めて、物事をじっくり見る(考える)ことが必要」という考えを基礎として構成されている。
今回の「フラットでグレーなもの」を鑑賞する上で、ぜひ会場に設置されるZINE「ありふれたもの」も合わせてご高覧頂きたい。
「ありふれたもの」では写真を通じて「過去に起こったありふれた出来事」を可視化することにより、自身の中に受け止める作業を行った。
本展示では、それらの時間軸やはっきりしたものをさらに削ぎ落し、「イメージ」としての写真を見つめ直す作業を通じて、さらに写真作品としての純度の高い内容となっている。
展示される作品のうち、今回のために新しくカラープリントした作品は「正しいことから外れて、曖昧なままをみてもいたい」という思いから、少し濁ったような、くすんだような色に仕上げられている。
これについてマツオカ氏は、「技術的に正しいとか間違いだとか、そういう写真論に疲れていたから、少し外れたところに行きたいと思っていました。シアンは普通使わないフィルターで、最初から正しい色からは外れているので、フラットな頭で純粋に好きな色合いを試すことができました。
もちろん、思ったようにならないこともありました。
でも、今までなら違うって思っていた色合いもプリントを見てみたらいいなって思うことがあって、以前よりも自分の中で色感覚が寛容になった気がします。良い悪いということだけではなくて、曖昧なままの写真を見てもらいたい。」と言う。
マツオカ氏の写真は、観る人が改めて「よい写真とは何か」を考えるきっかけになるのではないでしょうか。
今回展示される作品の多くがリヴィエールの暗室でプリントされたものであり、そのプロセスも含めて、マツオカ氏の言う「撮影時に意味付けしていたものとは別のもの」に出会う空間を提供出来たことを心より嬉しく思います。
今後もリヴィエールは、招待展示を行い、ギャラリーとして写真のみならず表現活動を行う若手作家をバックアップするとともに、暗室としてフィルム写真に関するワークショップなどを積極的に開催して参ります。
リヴィエール
〒564-0062 大阪府吹田市垂水町3丁目1-17 リヴィエール2F
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